友井羊『巌窟の王』ほか5作が第9回細谷正充賞に、モデルは「一度も自白しなかった」実在の男
タプにゃんと一緒にチェックしてきたよ!
大正2年、名古屋で起きた強盗殺人事件の犯人に仕立てられた硝子職人が、一度も自白しないまま服役し続けた——。
その実話を下敷きにした友井羊さんの小説『巌窟の王』が、第9回細谷正充賞の受賞5作品のひとつに選ばれました。
書評家・細谷正充氏が「発掘視点」で選ぶこの賞は、大きな話題になっていなくても読む価値がある本を掘り起こすのが持ち味です。
Pintabでは「読むなら何を選ぶか」「行くなら何が見られるか」を判断できるよう、受賞作の中身と受賞作品展の情報を確認しました。
先に結論をまとめると:
– 第9回細谷正充賞に『巌窟の王』(友井羊)を含む5作品が選ばれました
– 『巌窟の王』は実在の再審無罪事件「吉田岩窟王事件」がモデルです
– 受賞作品展は例年同様であれば有楽町の東京交通会館で10月3日まで開催中とみられます
第9回細谷正充賞、5作品が受賞
細谷正充賞は2018年に始まった文学賞で、書評家の細谷正充氏がひとりで選考する珍しい形式が特徴です。
毎年9月から翌年8月に刊行された作品の中から、ジャンルを問わず5作品を選びます。
第9回で選ばれたのは、友井羊さんの『巌窟の王』、実石沙枝子さんの『マッドのイカれた青春』、石井仁蔵さんの『コンフィデンシャル・ゲーム』、城山真一さんの『月曜のこない部屋』、滝沢志郎さんの『咲良は上手に説明したい!』の5作です。
時代小説から社会派長編、青春群像劇、お仕事小説まで、ジャンルはばらばらです。
この賞のもうひとつの特徴は、受賞発表と同時に有楽町の東京交通会館で受賞作品展が開かれることです。
過去の回でも同じ会場のギャラリーで無料展示が行われており、受賞作を手に取れる機会になってきました。
ただ、賞の名前だけを聞いても「結局どの本が面白いのか」はわかりません。
そこで、受賞作のうち特に注目したい『巌窟の王』を中心に、内容を調べてみました。
調べて分かったこと
なぜ『巌窟の王』が選ばれたのか?
『巌窟の王』は、大正2年(1913年)に名古屋で起きた強盗殺人事件をモデルにした小説です。
作中で主人公・岩田松之助のモデルになっているのは、実在の人物・吉田石松さんです。
吉田さんは事件の共犯とされた2人組の虚偽の自白によって主犯に仕立てられ、無実を訴え続けながら長期間服役しました。
仮出所後も冤罪を晴らすための活動を続け、最終的に再審無罪を勝ち取ったことから、のちに「昭和の巌窟王」(『モンテ・クリスト伯』の主人公になぞらえた呼び名)と呼ばれるようになった人物です。
著者の友井羊さんは、小学館の文芸情報サイト「小説丸」のインタビューで、以前に冤罪を題材にした別作品を書いた際、資料を調べる中でこの事件を知ったと明かしています。
そのうえで、モデルとなった人物に強く惹かれた理由をこう語っています。
「たくさんの冤罪や再審事件が存在しますが、ほとんどの場合、被疑者とされる方は自白をしているんです。
(中略)でも、岩田のモデルとなった人物は一度も自白しなかった。」(小説丸「友井羊『巌窟の王』◆熱血新刊インタビュー◆」より)
自白すれば刑が軽くなる可能性があっても、無実を貫き通した実在の人物の頑固さと人間味に、友井さんは小説の芯を見出したようです。
登場人物名などは変更されているものの、史実に沿った構成になっていると紹介する記事もあり、実話ベースの読み応えを期待できる一冊といえそうです。
受賞作品展はどんな内容?
受賞作品展の会場は、有楽町駅前にある東京交通会館です。
過去の回では会館内のギャラリー玻瑠で、9月末から10月上旬にかけて1週間ほど展示され、入場は無料でした。
今回も例年同様であれば、会場は東京交通会館のB1、会期は10月3日までとされています。
展示は受賞5作品をまとめて紹介する内容で、実際に足を運べば、書店の新刊コーナーだけでは気づきにくい作品同士を見比べられます。
会期が短いため、気になった方は早めの来場がよさそうです。
他に選ばれたのはどんな作品?
『マッドのイカれた青春』(実石沙枝子)は、圧倒的な美貌ゆえに周囲との摩擦を抱える女子高校生を描いた青春群像劇で、別の賞である第2回未来屋アオハル文学賞の大賞にも選ばれています。
『コンフィデンシャル・ゲーム』(石井仁蔵)は、各国の歴史的な局面を「秘密のチェス対局」に見立てて描くという、盤上ゲームと歴史エンタメを組み合わせた一冊です。
『月曜のこない部屋』(城山真一)は、ひきこもり支援施設を舞台に家族の再生を描く社会派長編で、著者は『看守の流儀』などのベストセラーで知られる作家です。
『咲良は上手に説明したい!』(滝沢志郎)は、駅係員の主人公がテクニカルライター(取扱説明書などをわかりやすく書く専門職)を目指す仕事小説で、刊行から約2カ月で3万部を超えたと紹介されています。
ジャンルを横断して選ばれているのが、この賞らしいところです。
受賞作はどこで買えるのか?
『巌窟の王』は光文社から刊行されており、電子書籍でも配信されているため、試し読みをしてから購入を決められます。
他の4作品も、それぞれの版元(講談社・徳間書店・祥伝社・PHP研究所)の書籍として書店やオンライン書店で流通しています。
受賞作品展に足を運べなくても、気になった作品はそのまま手に取れる状態にあるのは、読者にとって行動につながりやすいポイントです。
Pintab編集部の考察
細谷正充賞の面白さは、話題性ではなく「選ぶ人」の視点にあります。
細谷正充氏ひとりが選考する形式だからこそ、ベストセラーランキングには出てこない作品が混ざるのが特徴です。
今回の『巌窟の王』のように、実話をもとにした一冊が選ばれると、「なぜこの事件を今書いたのか」という作家側の動機まで含めて楽しめます。
単に賞を取った本を追うのではなく、「なぜこの5作が選ばれたのか」を知ってから読むと、作品の見え方が変わってくるはずです。
受賞作品展のような無料の場は、こうした「選ぶ人の視点」に触れる入り口としても使いやすいでしょう。
会期が短い展示ほど、事前に受賞作の中身を知っているかどうかで、当日の楽しみ方が変わってきます。
まとめ
第9回細谷正充賞では、実在の冤罪事件をモデルにした『巌窟の王』を含む5作品が選ばれました。
受賞作品展は例年同様であれば10月3日まで有楽町の東京交通会館で開かれているとみられ、気になった作品はそのまま書店や電子書籍で手に取れます。
さらに深掘りしたい方へ
『巌窟の王』の執筆背景をより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
- 小説丸「友井羊『巌窟の王』◆熱血新刊インタビュー◆」 – 著者本人が執筆のきっかけを語るインタビュー
- リアルサウンドブック「友井羊『巌窟の王』が凄い」 – モデルとなった吉田岩窟王事件の詳細解説
- 光文社『巌窟の王』作品ページ – あらすじと書誌情報
- 東京交通会館 ギャラリー案内 – 受賞作品展の会場情報
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